観劇 感想 2022年 星組 ベアタ・ベアトリクス

公演

本作は、星組の極美慎さんの宝塚バウホール公演初主演作です。

極美慎さんは、2014年入団の第100期生、研9でのバウホール主演になります。


「ベアタ・ベアトリクス」とは、最高の、最上のベアトリクスという意味で、

詩人ダンテの作品の中に出てくる、理想の女性「ベアトリーチェ」のことです。


ロセッティはダンテを愛読しており、

自分にとってのベアトリーチェである絵のモデルをを探し求めていたのですが、

ヒロイン、リジ―と出会い、

彼女こそがベアトリーチェと、リジ―と恋に落ちます。

以下ネタバレ含む感想です。

●作品について

本作は、演出家・熊倉飛鳥先生の宝塚バウホールデビュー作だそうです。

ポスターの雰囲気だけでは、作品がどんな内容かよく分からなくて、

全体的に暗い?どうなんだろう?と思っていましたが、

展開が早く、面白くて、すっかり物語に引き込まれてしまいました。

最初は絵がストーリーの中心で、絵が認められない、とか、実力が、という世界観でしたが、

だんだん恋愛要素が多めになり、

絵画や芸術家を巡って恋に落ち、破れ、、、というストーリーが展開されます。

あんまり絵画が劇中に出てこず、絵の展覧会のシーンも額縁のみで絵を表すというセットでした。

きっと観客の頭の中で絵を想像するようになっているのでしょうか。

絵画「ベアタ・ベアトリクス」より、

ミレイの描いた絵「オフィーリア」が、物事にきっかけにもなり、

舞台の中心になっているように思いました。


●極美慎さん(ダンテ・ガブリエル・ロセッティ役)

極美さんは、やっぱりキラキラオーラがあって、

顔が小さくて、スタイルがよくて、細くって、輝いていました。

女性関係が派手で、酒場にはお金を払わず付けで飲む。

そんな女と酒にどうしようもないロセッティも、

極美さんが演じるとなんだか爽やかになるから不思議です。

絵に落書きをすることでしか自分を表現できなかったロセッティが、

次第に周囲に認められ、

そこから少しずつ歯車が狂ったように落ちてゆく様子がとてもよく分かりました。

才能あふれるミレイに比べ、自分には絵の才能がないと落ち込むロセッティ。

人は自分よりすぐれた人や、自分より多くの物を持っている人に

劣等感を抱いてしまうものですが、

その辺りのつらい気持ちがよく出ていたように思います。

爽やかでキラキラな極美さんなので、

途中ロセッティが落ちぶれていく時も爽やかで、あまりボロボロ感がなかったような。。。

衣装のグリーンやイエローも、

絵画「ベアタ・ベアトリクス」の色から来ているのかなと思いました。

●小桜ほのかさん(リジー・シダル役)

赤毛にイエローのドレス、青いリボン、と、赤、黄、青の三色揃ったとっても華やかなリジ―。

その明るさと華やかさが、ロセッティが俺のベアトリーチェだと確信した魅力が良く表されています。

歌も上手で抜群の安定感!

マイクトラブルで音声が聞こえなかった場面がありましたが、

落ち着いて地声で乗り切っていました。

物語としては、リジ―は何も悪くないのに、

ロセッティに見出されたばかりにあんなに辛い生涯を送ることになってしまい、

かわいそうでしかないです。

オフィーリアのモデルになった時のシーンが、よかったです。

ああ、あの絵か!とあの場面を見て分かりました。

●天飛 華音さん(ジョン・エヴァレット・ミレイ役)

アカデミーで神童と呼ばれ、英才教育を受けた、才能あふれる画家の役です。

舞台では、一人で孤独に絵を描いてきた孤高の天才と言ったふうに描かれています。

登場した時から、金髪ロングヘアにネイビーブルーの衣装と、とっても華やかな出で立ち!

オフィーリアを描いていた時の鬼気迫る演技が、迫力がありました。

舞台ではあまりダンスのシーンがなかったのですが、

最後のフィナーレでのダンスがキレッキレだったので、

今度の公演で天飛さんのダンスやショーを見るのが楽しみです。

役としては、お世話になったパトロンのラスキンさんの妻を奪うという、

恩を仇で返すという言葉がピッタリの役ですが、

それを美化というか、愛が感じられないなら、それはしょうがないよね、

と言う風になっていたのが、なんだかなあ、となり、ラスキンさんが気の毒に思いました。



ちなみに「落穂拾い」を描いたミレーとはまた別人です。


●碧海 さりおさん(ウィリアム・ホルマン・ハント役)

ロセッティの友人で、ずっと彼のそばにいた人。画家で、ラファエル前派の創立者の一人でした。

ロセッティやミレイのように色々な事件はなく、堅実に絵を描き続けていたそうです。

実直で頼りになる雰囲気をしっかりと演じられていました。


●水乃 ゆりさん(ジェイン・バーデン役)

芝居小屋の女優で、赤や紫がテーマカラーの、

リジ―とはまた違った魅力のある、艶やかなタイプの女性です。

好きな人(ロセッティ)に結局振り向いてもらえず、ウイリアム・モリスと結婚します。

ブルジョワジーのモリスが求婚してくれたことが嬉しかったようですが、

結局求めたのはお金や地位ではなく、愛。

ロセッティに出会い、モデルとしてロセッティに必要とされる喜び、

そして彼が死ぬまで本当に自分を見てくれなかった辛さという

心の変化がよく表されていると思いました。


水乃さんの魅力を存分に堪能できる作品だと思います。

●大希 颯さん(ウィリアム・モリス役)

105期生の研4で、稀惺かずとさんと同じ学年での大抜擢!

登場の瞬間から爽やかで笑顔が素敵で、オーラがすごくて、

誰この人?と思わせる雰囲気がありました。

演技も落ち着いていて貫禄もあったので、そんなに若いとは全然感じなかったです。

芝居小屋にロセッティを連れて行くきっかけになったり、アトリエを提供したりと、

割と話のキーパーソン的な役割です。


●ひろ香 祐さん(ジョン・ラスキン役)

お金持ちで、画家たちを援助してくれますが、

色々な理由から画家たちとは袂を分かつことになってしまいます。

いつも優しくて、奥さんが他の男に走るほど、悪い人には見えなかったです。

頼れるラスキンさんという感じで、

ひろ香さんも舞台メンバー最高学年ということで、

この舞台の間、このようにみんなを引っ張って、

導いてくれる存在なんだろうなと感じました。


●朝水りょうさん(ガブリエーレ・ロセッティ役)

極美ロセッティの父親役で、幽霊としてしか登場しませんが、

何度もロセッティの回想の中に現れ、結構インパクトのある役でした。

子供に期待をかけ、

自分の望む職業につかないと知ると、冷たくする・・・

父親の登場によって、人生に光を得て、また父により心に傷を負うことになった

ロセッティの葛藤をより理解することができました。

●作品のメッセージ

言いたかったポイントは色々あると思いますが、

私が印象に残ったのは、落ちぶれたロセッティに、

ジョン・エヴァレット・ミレイが掛けた言葉「人生は今日から始まりだ」でした。

人は、たとえダメになっても、

生きている限り何度でも立ち上がることが出来るのだと気付かされました。

ロセッティも、そこから立ち上がり、

リジ―と向き合うつらさを克服し

名作「ベアタ・ベアトリクス」を描き上げます。


「ベアタ・ベアトリクス」にしても「オフィーリア」にしても

素晴らしい作品は、作者が亡くなった後も、後世に残り続けるのですね。


●星組

コロナ禍でしたが、上演できて、本当によかったです。

極美慎さんは、もし暁さんがトップになると、二番手になるのでしょうか。

(組み替えもあるかもしれませんが。。。)

今のトップさんがまだまだ就任期間は長そうですし、

極美さんが今後大きく羽ばたく過程でのこの作品を見られてよかったです。

これからの星組が楽しみですね。

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